2014年12月5日金曜日

自由集会「若手の将来を考える〜日本サンゴ礁学会若手の会〜」開催報告


サンゴ礁学会大会の自由集会で「若手の将来を考える」を開催しました(11月27日).
普段聞けないような研究者の本音,培ってきた(大学院・研究生活などを)うまく乗り切るためのノウハウ等のサバイバル体験を会場のゲストとシェアして議論して,よりよい研究人生や大学院生活や研究以外の人生を歩むためのヒントを得るために,サバイバル体験をもつ5名の研究者とパネルディスカッションを行いました.

パネリスト紹介
「積極的な研究成果発信:若手の活躍場所はいろいろあることがわかった」by本郷さん
「研究者になるまでの道」by栗原さん
「PIになる前と後の研究生活の楽しみ、何が同じで何が違うか?」by安田さん
「ゼロから始める成功する海外留学」by梅澤さん
「科学コミュニケーションってどんな仕事?」by浪崎さん&高橋さん

約25名の方にご参集いただきました.ありがとうございました.

以下まとめ.


*****************************************************************

本郷宙軌さん(琉球大学・学振PD)
「積極的な研究成果発信:若手の活躍場所はいろいろあることがわかった」

地球科学分野からサンゴ礁に果敢にアプローチしている本郷さんからは,若手の就職先として研究の成果発信を担うマスコミも選択肢としてあることを紹介いただきました.

「研究」とは,まず「計画」して「作業」して,それをまとめて「学会で発表する」&「論文に発表する」というのが一般的な研究の流れだけども,その後に新聞や一般科学誌に紹介する「成果発信」のプロセスが必要である.この「成果発信」に携わる職業が若手研究者の就職先の選択肢としてあることを強調していました.以下はマスコミとして活躍できそうな分野の紹介.

1.新聞記者としての活躍
記者:いつも記事を探している→研究者:研究情報に詳しい
記者:科学担当記者がいない場合がある→研究者:科学に詳しい

2.出版社の記者としての活躍
例えば,一般科学誌ニュートン
記者:サンゴ礁のことはよくわからん→研究者:サンゴ礁をよく知っている(若手でサンゴ礁特集も組める)
記者:いつも執筆に追われている→研究者:執筆に追われているのに慣れている(科学文章が書ける)

3.出版社の編集者としての活躍
たとえば,Springer
編集者:ライフサイエンス系の編集者が欲しい→研究者:サンゴ礁の研究している=ライフサイエンス詳しい

4.TVディレクターとしての活躍
ディレクター:研究成果の重要な点をしっかり理解して伝えることが必要→研究者:研究の重要な点・伝えるべき点がわかる
ディレクター:どんな研究がどこにあるのかいつも探すことが重要→研究者:学会とかに参加していて学術世界に詳しい

まとめ:
研究者以外にもマスコミ関係でいろいろ道があるよ! 

*****************************************************************

栗原晴子さん(琉球大学・助教)
「研究者になるまでの道」

栗原さんには,これまで研究者として歩んできた道のりを赤裸々にお話いただき,これまでの体験を踏まえてポスドク時代をいかに大切にするかについてお話しいただきました.

学部,修士課程,博士課程は全て異なる研究テーマ・大学(研究室)に所属し,周りからは「あまり研究テーマをコロコロ変えるのは良くない」と言われつつも,振り返ってみると後で全部役に立っていることを実感.学位取得後,研究所で学術論文誌へ成果を報告することへの壁を感じ,論文の書ける大学に行こうと決意.

2004年10月にアメリカでDIALOGという若手研究者のための育成セミナー参加して研究者としてやっていくための有益な情報を多く入手. 2005年から長崎大学で5年間ポスドクを勤める.ポスドク時代が最も楽しかった(研究に没頭できた).プロジェクト内容と自身の研究興味が一致していたため,極めて恵まれていた.

ポスドク中も国内外の研究所・大学にいろいろと就活トライ.ポスドクはあまり公募がでなく,人脈経由で決まることがよくあり,そのためいつも周囲に自身の顔を売り,研究内容や就職中であることをアピールしておくが極めて重要(以外とポスドクを探している人は多い).

就職活動中,海外での面接はのべ4日間を要し,飲み会,学長/学部長等との対談,学生との会話など全てが審査の対象に含まれ,つきあい度や人格なども審査されたのに対し.国内での面接はたったの30分.海外と日本の違いを実感.

2008年,琉球大学のテニュア助教に.赴任後,これまで手にしたことに無い金額の研究費を手にし意気揚々とするが,机や椅子・実験台などの設備投資にほとんどを費やし,研究には金がかかることを実感.赴任した1月から9月は孤独だったが,10月から学生をうけつもつようになり,突然自分の時間がなくなる.2010年4月から授業も始まり,授業の準備に追われ自転車操業な半年間を過ごす.ポスドク時代に教員の代わりに授業を行った経験やその際に作成したスライドが役に立った.ポスドク時代に授業を積極的に行ったり,また授業に使用できるコネタや授業の資料を少しづつ準備しておくと良い.

2011年テニュアの中間審査があり,論文のプレッシャーも感じるように.しかし自分のおかれている立場(論文や高い研究成果を出さなければならい)と学生の立場(教育を受けつつ,研究は少し行いつつ学生生活を楽しみたい)のギャップに苦しむ.テニュア取得後は,自身で研究費を獲得する必要があり,一方研究室の学生も増え,助成金取得のプレッシャー.

現在は,週5コマの授業・大学の委員会(女性の場合は特にハラスメント委員や数々の委員を頼まれる)・入試/学務関連・学生指導・学会の委員会・県の委員会・助成金申請・論文書き等で多忙を極め(自分で研究できるのは1年のうち2ヶ月だけ),新たな技術・知識を得る時間なし!後はアイデアのみ.つまり学生・ポスドク時代の経験が全て!

まとめ:
学生/ポスドク時代にとことん技術と知識と人脈を広げ、そして楽しめ!


*****************************************************************

安田仁奈さん(宮崎大学・テニュア准教授)
「PIになる前と後の研究生活の楽しみ、何が同じで何が違うか?」

安田さんは,2008年に学位を取得後,瀬戸内水研へ.学振PD時代にドイツ・ミュンヘンで7ヶ月留学を経て,宮崎大の助教に.現在は宮崎大のテェニュア准教授.宮崎大助教のときからPI (principal investigator)となる.

そもそもの自分にとっての研究のモチベーションは,楽しいから・興味があるから・生態系を守りたい・社会に役立てる接点だから,といろいろあるが,自分と周囲が楽しんで成長するためというのが一番中心.

PIとは,自分で研究を独立して運営するする立場のこと.PIになる以前は,いっぱい実験ができる・研究費の心配がない・雑用少ない・周辺分野の知識が得られる,など様々なメリットがある.
留学ができるのもPIになる前が一番のチャンス.ビールも美味しくて町も美しいドイツに行けて良かったけど,自分の専門分野のトップの英語圏ラボに行けば研究者としてはさらに良かったと思う.非英語圏では英語は上達しない(日本で頑張った勉強の方が英語力上昇に効果あり) 

PIになった直後,見知らぬ土地でひとりぼっち.最初はスタートアップ資金がとても少なくて,やりくりが大変だった.学ぶVS教えるのバランスも難しい.宮崎大は学部生の2/3は卒業して就職していき,1/3が修士まで進むが,ドクターはほとんどいない.研究者になろうというモチベーションではない中頑張ってもらう必要性.自分で実験したいができないことがたまにもどかしい.

今楽しいことは,好きなことができる・研究室のメンバーが活躍すると嬉しい・みんなで一緒にがんばって達成できるのが嬉しい・お茶タイムが楽しい・全て人に恵まれていることが感謝などなど.

まとめ:
未来のことを気にしすぎず,目の前のことをありがたく,とにかくやりとげろ! 

*****************************************************************

梅澤有さん(長崎大学・准教授)
「ゼロから始める成功する海外留学」

〜自分と英語との関わりの歴史〜
中学生〜大学生 (英語学習のモチベーションの欠如)
・英語の成績が常に卒業・単位取得のギリギリの低空飛行.
・危機感で,参考書だけを買いまくるが,買うだけ満足で,結局は読まない.

修士〜博士課程 (モチベーションの増加、英語コンプレックスの克服へ)
・海外調査増加や,英語で論文を書くようになって英語の必要性を痛感.
・1時間3000円!のマンツーマン英会話レッスンを複数始める.

ポスドク〜現在 (英語を使う機会の増加)
・学会でのセッションコンビナー,沖縄での10th ICRS時に開催したビーチパーティなど,胃が痛くなるようなこともクリアすれば,確実に経験値と自信は増える.
・ハワイ大学への留学(外国人向けの英語授業でEnglish Grammerという本に出会い,実際の会話に使われる文法として身につき,英語が面白くなった)
・大学の公務としてのカリフォルニア大学、台湾海洋大学への数か月の滞在

〜良い留学先の探し方〜
1.指導教官にコネがあり,紹介してもらえればベストだが,全くない場合,相手に自分を信用してもらうのが重要
2.英語論文を名刺代わりにする.
3.英語ホームページを作成してアピール.
4.学会は就活の場である.自分を売り込め!お目当ての人に自分の論文を渡しまくる.国際会議ではブースに座って,おとずれる研究者に売り込み.人を捕まえてしゃべる.
5.学振PDを目指す(これは自由の身).お金もってきて来てくれる人は受け入れてくれる可能性高い.
6.下見の訪問を行う.設備,周囲の人々,相手の受け入れ状況,街の様子などをチェックし,必要な準備を具体化する.

振り返ってみての感想
自分なんか通用しないのではと思い,レベルが高くないラボに行ってしまったのは後悔している.フィールドに近いことよりも,最新の実験設備があり,人の集まる流行の研究室へ行け!人脈作りが重要,将来の共同研究の可能性あり.

〜英語上達にむけて〜
1.コンプレックスをなくす
2.ひたすら英語を勉強する(単語力はやっぱり大事)
3.海外ではすべての会話が無料の格好の授業になる.
通りすがりの人,お店の人,ホテルの部屋からフロント,公共機関への電話.アパートの各部屋にも引っ越し挨拶を配って,その後の会話の機会を増やした(ただし,女性はしないほうがいいと思う)
4.ニュース・ドラマ・映画を見まくる
5.趣味が同じ友達をつくる.
会話の機会が増える.相乗的に友達が増える.
7.パーティ好きになる.
パーティでは活きた会話が身につく.孤立している人が必ずいるので見つけてしゃべる(これも無料の会話機会).どんな小さいホームパーティでも,寿司などの食事を作って持っていくことで,自分を覚えてもらえるし,会話機会も増える.
8.英語を書く癖をつける
英語でブログを書くと,素の自分を知ってもらえる機会が増える.
9.自信を持って,相手の目を見て,はっきりと,ゆっくり大きな声で話す.
10.良い発音で話すことを心がける

〜海外での閉塞感を乗り越える方法〜

英語が聞き取れない!
1.わかるまで聞き直す
2.自分から話を切り出す
3.英語できないのは当たり前と開き直る
(人間は、誰でも良い点と悪い点を持っている.日本人は自分が出来ないことを嘆く傾向にあるけど,米国人は自分が出来ることを誇りにするというメンタリティを学んだ.常にプラス思考でいけ!)

研究室に溶け込んでない!
(特に、学振研究員などの場合、相手も深く関与してこない可能性が高く孤立することも)
・研究室のプロジェクトにも積極的に貢献する.
・学生のフィールドの手伝いなども,英語の会話や人脈の機会を増やす.

〜海外にでることのメリット〜
1.語学力
2.人脈
3.異文化体験
4.日本の大学への就職
現在多くの大学が外国人の採用を進めようとしており,海外でPhDをとった日本人や海外に1年以上滞在していた日本人でも文科省に提出する人数でカウントされることがあり,優位になる.面接時に英語授業を課される機会が増える.

まとめ:
ひたすら英語を勉強し,接する機会を増やし外国語コンプレックスをなくせ!
常に一歩前に攻める姿勢で,ひとつひとつ壁を乗り越えていく.
  
*****************************************************************

浪崎直子さん(東京大学・研究員)& 高橋麻美さん(科学未来館)
「科学コミュニケーションってどんな仕事?」

これまで海辺の環境教育や科学コミュニケーターの仕事をしてきた浪崎さん(科学コミュニケーターについては,仲栄真他(2014)サンゴ礁学会誌を参照してください).最初に就職した海の環境NPO法人OWSでは,海辺の環境教育活動の企画運営やNPOの組織運営全般を担当.次に転職した国立環境研究所では,科研費「サンゴ礁学」の事務局としてホームページやニュースレターの作成,地域での成果報告会,若手の会などの運営を通じて,研究成果を地域伝え,研究者にフィードバックする科学コミュニケーションの仕事を担当した.あわせて久米島応援プロジェクトで地域住民の聞き取り調査や小学校での環境教育に携わってきた.3つ目の職場である東大三崎臨海実験所に赴任してからは,海洋教育の仕事に関わっている.同じく科学コミュニケーターを勤める日本科学未来館の高橋麻美さんからのビデオメッセージの紹介もありました.

科学コミュニケータの仕事は多様である.伝える手段も対象者も様々で,立場が違えば重要なことも変わる.研究者の立場では研究成果をわかりやすく人に届けることが重要になるが.地域の立場では地域の身近な事,地域の課題解決や地域おこしにつながることを求めていたりする.科学コミュニケーターになる人は,自分の得意分野ややりたいことを明確に.科学コミュニケーターの実態は,不安定な職である.でもやりがいも多い.

まとめ:
科学コミュニケータの仕事は多様!得意分野を見つけて.
*****************************************************************


質疑・討論(*今回川口賞を受賞された井口亮さん(沖縄高専)からのコメントをまぜています)

質問1:研究者としてやっていくには何が重要か?
・ポスドクとして評価されるには,成果としてそれなりに論文を出さないといけないが,あるところまでいくと差別化されにくくなるので,自分のオリジナリティ(アイデアでも技術でもいい)を示すような姿勢が大事.
・論文数だけじゃなく共同研究ができるかどうか(協調性).敵を作らない.
・運がいいこと.
・ストライクゾーンをたくさん作ることが大事.耳学問であらゆることを学んでい使える人材になる.
・新しい研究のフォローはできる限り欠かさない(いろんな分野の論文を読んだり,ブログやツイッターで研究関連の情報を集めたり).モチベーションの維持にもなる.
・何に対してもレスポンスが良いこと(メールとか)
・いわゆるパーマネントの研究者になるタイミングは,自分の努力ではどうしようもない部分がかなりある.とにかく続けること.それなりに論文が出せて,それなりに存在感と信頼があれば,あとはとにかく続けるのみ.その意味で,論文と存在感・信頼は,どちらも意識して大事にしておいた方がいい(論文だけ頑張っていると後者がおろそかになってしまう.逆もしかり...)

質問2:良い研究者とは?
・受けている研究費に見合った成果を論文として着実に出しつつ,常に新しいことにチャレンジしつつ,裾野が広がる研究活動を展開している人.
・内容よりも,ものすごく自分の研究を楽しそうに話をする人
・良い教育者とも違う.

質問3:研究者と科学者との違いは?
あまり違いを意識していない.職業としてやっているか(ファーブルのように)アマチュアとしてやっているかどうかの違い.

質問4:ポスドクに授業させることについて
ぜひポスドクにも授業してほしい.もっと講義させる環境があるといい.海外ではPhDの学生がコマをもっていたりする.基礎学問もアップする.1コマでも講義を持てることもあるので周囲の先生に聞いてみるといい.履歴書に教育経験を書き込める→大学など教育機関に就職するときに有利.

質問5:助成金獲得のコツは?
何が求められているのかを常に把握する.同じ研究でも言い方次第で受け取る印象が大きく違うことを意識する.ワクワクして書いた書類は一夜漬けでも通ることもある.図を多く使って見やすくアピール.

質問6:海外にでるメリットは?(これは意見が分かれた)
・たいていのことは国内でできるからそれほどない,必要に応じて行けばいい.国内でもトップの研究室にいればそれほど海外にでる必要はない.やはり異分野体験が大きいのでは?
・ポスドク時代に海外に行かなかったことを後悔.海外研究者の考え方,研究室の運営の仕方などを学びたかった.海外では1年で7本ファーストで論文書く人もいる.

質問7:論文を書く(書き続ける)コツは?
読み手のことを考える.5分10分でもいいから隙間時間に論文を書ける人になる.貪欲に.実験しながら書く(明日サンプリングなら前日にマトメソを書く).常に2本をsubmit状態にしておく.

質問(番外編):ポスドクの時期を有効に過ごすにはなにしたらいい?
博士課程での成果をしっかり論文にすること(不良債権をなくす),そして将来につながる新しいことにもチャレンジすること.将来につながると自分で確信を持てるなら(新しい手法の勉強会の参加などに)惜しみなくお金をつぎ込む.






本自由集会に関する問い合わせ:
中嶋亮太(JAMSTEC) nakajimar@jamastec.go.jp

0 件のコメント:

コメントを投稿